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しとしとと雨が降っていた。
開けた窓の外、遠くからさざ波のように聞こえてくる、パトカーのサイレン。
重い瞼を上げると、室内は真っ暗だった。汗ばんだ背中に、シーツがまとわりついてくる。
携帯を開く。時刻は深夜三時を回っていた。
すぐ横には、静かに寝息を立てる女。
溜め息をついて起きあがり、俺は手探りでテーブルの上の煙草を手に取った。
ジッポーライターで火をつける。ほんの数秒だったが、赤い炎は周囲の闇を押し返した。
お世辞にも片付いているとは言えない狭い部屋は、すぐにまた闇に包まれる。
気怠く煙草を燻らせながら、俺は見るでもなく網戸越しに窓の外を見た。
住宅地の中の、古くて安いアパートだ。眺望のいいわけがないのだが、小さな児童公園に隣接しているので閉塞感はない。
雨も湿気も好きじゃない。だが、梅雨の最中だ。また何日も鬱陶しい天気が続くのかと思うと、気が滅入る。
短くなった煙草を灰皿で揉み消して、窓を閉めエアコンのスイッチを入れた。
もぞもぞと女が布団の中で身じろぎした。
「んー……遥ー……」
寝起きだというのに、やたらと甘ったるい声を出してくる。いつものことだが。
夕方俺がバイトから帰ってきたら、酒の入った袋を下げてすでにドアの前で待っていた。一緒に缶チューハイを数本空けているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。
暗い中で女が手招きしたので、もう一度布団に横になる。
「お前、いつの間に脱いだんだ」
「だって、暑かったんだもん……」
そう言いながら、首に細い腕を絡ませてきた。フローラル系の濃厚な香りが鼻について、俺は大袈裟に顔をしかめる。この暗さではそれも見えないだろう。
「俺この香水嫌いだって言っただろ」
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