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人気のない細い四つ辻の一角に、老朽化した街灯が一本ぽつんと立っている。
それは点滅を繰り返しながら、辛うじて地面を照らしていた。
すぐ脇には、朽ちかけた板塀に囲まれた、古い木造二階建ての店舗。この一角だけ、百年ほど前に時間が止まってしまったかのような雰囲気を醸し出していた。
入口の横にかけられた表札には、達筆すぎて読めないほどの字が書かれている。
『白紙委任堂』。
建物の一階から弱い明かりがもれ出て、闇の中にぼんやりと浮かんでいるかのようだった。
ガラガラ、とたてつけの悪そうな音を立てて、入口のガラス戸が開いた。
「じいちゃーん、いるー?」
入ってすぐは広めの土間になっていて、その両脇には様々な品が堆(ウズタカ)く積まれていた。
ところどころ埃を被ってはいるが、書物だけは書棚にきちんと収められている。見たところ、ほとんどが古書だ。
「……おおー、瀬里奈。よう来たな」
奥から齢百になろうかという、腰の曲がった老爺が出てきた。土間を上がった板の間には、細長い卓が設えられている。そのそばにどっこいしょと腰を下ろした。
卓の上には筆と硯、半紙、そして黒電話。
瀬里奈と呼ばれたうら若い女性は、卓のそばの板の間に姿勢良く座った。
「どれだけ見てても飽きないけど、ここっていつ来てもなーんか埃っぽいよね」
「まあそう言わんと」
笑い声を立てて、老爺はハンチング帽をかぶり直した。長年愛用しているトレードマークだ。
「そうや。瀬里奈お前、店の物をひとつ持ち出したやろ」
「……あ。ばれてた?」
「勝手なことしちゃいかん。どの品も、縁があるところへ行くんやから」
「ごめんなさーい」
瀬里奈は肩をすくめて苦笑する。
持ち出された品は、ジッポーライター。その品は今でも、西澤遥の手元にある。
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