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雨音がいやに激しく響く。……どうやら強まってきたみたいだ。
俺は、真っ黒な傘をたたんで式場に足を踏み入れた。
真っ黒なスーツのまま、真っ黒なドレスの受付嬢の元で名前を記入し、真っ黒でもない心で彼女の遺影を見上げた。
高橋海紗。俺の元クラスメイトで、元婚約者。その隣には、同じ会社の上司の遺影。
「……」
そして、俺-青井裕也は無言で上司の写真を見つめた。
死んでくれて助かったよ。バーカ。
俺は、心の中で上司に向かってあっかんべーをした。
……海紗を寝とった男だ。別にここまでしてもいいだろう。
とんだ報いをうけたもんだ。まったく。
俺は、白い菊の花を献花するとところせましと並んだパイプ椅子のひとつに腰をおろした。
ていうか、海紗を道連れにすんなよ。
最低な旦那だな。お前って。
上司を"お前"呼ばわりすんのかもどうかと思うけど……まあいっか。別に問題ねえだろ。
どうせ、もう死んでるしね。
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