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(惨い、惨すぎる……) パットは口の中に広がる胃液を吐き出さないよう、堪えながらその様子を静観していた。 その時だった。 「お兄ちゃんここで何してるの? 隠れん坊?」 はっとして振り返るパット。そこには小さな人形を抱えた年端もいかぬ女の子が、不思議そうにパットを見つめていた。 「誰だ! まだ誰か待ち構えてやがんのか!?」 怒声が隠れているパットの方角に向けられる。 気付かれた事にパットはゴクリと息を呑み、肝を冷やした。 「待て、待ってくれ、隠れているのは子供だ。見逃してやってくれ」 立ち位置から悶えていた男の目には、二人の姿が確認できていた。 「あ~ん? お前の頼みを俺達が聞くと思ってんのか?」 「頼む後生だ。見逃してくれ。その代わり俺はどうなってもいい」 土下座して身代わりを訴える男。そうまでして懇願する理由がこの男には有った。
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