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両親は既に他界。
お互い天涯孤独だった両親には親戚がなく、残ったものは一人暮らしには少し大きな一軒家。
孤児院育ちの私は高校入学と同時にこの家を引き継ぎ、一人細々と暮らしていた。
両親は保険に入っていなかったが、家は一括で購入したらしく、借金などもなく、コツコツとお金を貯めていた。
が、あれからもう10年。
貯金も底をつきつつある。
この家を売ったらどうか、とも言われた。
が、両親との思い出…というよりは、雨風凌げる場所があるのは一時の金をとるより、何十年先まで財産になる。
そんな堅実かつ打算的な考えで、私は両親の家を継いだのである。
これから先何十年も…見えない未来を、一人生き抜くために…
「うしっ!!」
頬をバシバシ叩いて気合いを入れる。
いつもの交差点、いつもの信号待ち。
もう少しで家…。
ごそごそと鞄を探る。
A型だからなのか、生まれもっての性分なのか、
いつも、信号待ちの時間を有効に使って、鍵を取り出していた。
信号が青でも渡らずに一本待つほどのこだわりぶり。
明かりのない、薄暗い玄関前で鍵を探すのがなんとなく嫌いで、
毎日そうしていた。
そう…いつもの交差点、いつもと同じ少し長い信号待ちで、いつもと同じ作業。
だが、それは突然起こった。
「あ!!」
鍵が!
「待って!!」
鍵が赤信号の交差点の中へと吸い込まれていき-!
「あ…!!!」
慌てて、手を伸ばす…!!
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