胸を模る猫と鸚鵡

2/11
前へ
/11ページ
次へ
大叔母様からブローチを頂いた。 乳白色の石に浮き彫りに模られた猫の横顔。くすんだ金の縁が、ブローチの楕円をささやかに彩る。 手の平の半分ほどもある大きなブローチ。さっそく、ドレスの胸に着けてみた。 山茶花の花弁が霜柱の上にはらはらと。小春日和の陽に落とされて庭を赤の混じった桃色に染めている。 新しく手に入れた装飾品を、木々たちに見せびらかしたい気分になり。毛織のケープを羽織って生い茂る熊笹をかき分けて、吐く息も瞬く間に冷える庭を散策する。 霜の降りた飛び石は僅かな陽光を受け。時々眩しげに目を細め雲母が煌めいていた。 庭の隅にひっそり忘れ去られた井戸。手を伸ばすと届きそうな位置まで水が溜まり、古井戸は覗き込む私を丸く映し出す。髪を整え、曲がった襟元を正した。 「あっ。」 井戸へブローチが落ちていく。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加