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大叔母様からブローチを頂いた。
乳白色の石に浮き彫りに模られた猫の横顔。くすんだ金の縁が、ブローチの楕円をささやかに彩る。
手の平の半分ほどもある大きなブローチ。さっそく、ドレスの胸に着けてみた。
山茶花の花弁が霜柱の上にはらはらと。小春日和の陽に落とされて庭を赤の混じった桃色に染めている。
新しく手に入れた装飾品を、木々たちに見せびらかしたい気分になり。毛織のケープを羽織って生い茂る熊笹をかき分けて、吐く息も瞬く間に冷える庭を散策する。
霜の降りた飛び石は僅かな陽光を受け。時々眩しげに目を細め雲母が煌めいていた。
庭の隅にひっそり忘れ去られた井戸。手を伸ばすと届きそうな位置まで水が溜まり、古井戸は覗き込む私を丸く映し出す。髪を整え、曲がった襟元を正した。
「あっ。」
井戸へブローチが落ちていく。
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