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私の胸元から逃げた猫のブローチは真っ直ぐに、水鏡を割って奥底へ消えた。
「ああ…………」
「お困りですか、お嬢さん。」
頭上から降る野太い声。
見上げた先の山茶花の枝。凝視する私へ純白のオウムが羽ばたいて見せる。
「困っているわ。大事なブローチを井戸の底に落としてしまったの。」
「そうですか。よければ僕が拾いましょう。御礼をくれるなら。」
オウムの申し出に、私はしばし逡巡した。家の者にブローチを失くしたことを告げれば、ひどく怒られるのは明白。
「そうね、お願い。御礼をするからブローチを拾って。」
「承知しました。約束ですよ。」
羽音を響かせてオウムは井戸へ一直線。水に鉤爪が触れる寸前に、鳥の姿は流線型に長いヒレのある形へと変化した。
言葉を失う私。
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