奏太

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「あんた、だから言ったでしょ!」 母親の怒鳴り声に、ソファーに身を沈めたまま、奏太は鬱陶しげに顔をしかめた。 「だから、塾はいらないんだってば。ちゃんと自分でやるから。学校の宿題もあるし」 「嘘ばっかり言わないの! ちゃんとやらないから入りなさいって勧めたのよ。 後で泣きを見るのは自分なの、分かってるでしょうが!」 その言葉が妙にカチンときた。奏太は思わず立ち上がり、叫んでいた。 「だからさ、分かんないかな…せっかくの夏休みなのに、勉強で埋め尽くすのが嫌だっつってんの!」 ばん、と手元のマンガを床に叩きつけ、唖然とする母親の前を突っ切り、そのまま玄関に向かった。 背後から何処に行くのかと問うのが聞こえ、 奏太は「散歩」とぶっきらぼうに答えて靴を履き、躊躇いもなく家を出た。 マンションの階段を駆け降りながら、ふと夏の夜空を仰いでいると、そのまま最後の一段を踏み外して小さく声をあげてしまった。 外の空気は生ぬるく、くぐもっている。 走ってマンションの敷地を抜け、近くの大きな道路に出ると、奏太はそこで足を緩めた。 思ったより息は上がらなかったが、背中には微かに汗が滲んでいる。 特にあてもなく、何となくその道路を真っ直ぐ歩いていった。
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