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そんな僕に人を治療するなどという行為が出来るのだろうか。
いや、そもそも菜の花第二病棟という場所が、主にどんな患者を受け入れているのか、それすら判らないとなると考えるだけ無駄のような気がしないでもない。
……まぁ、それでも可能性があるとすれば末期患者の話し相手、だったり。
治療し、退院させることなんてまず不可能だから事実上の終身刑だし、話し相手が続々と死んでいくというのも刑罰としてはアリかもしれない。
……ノイローゼになるかもな。
「じゃあ買ってきますね」
宮間がそう言うのとほぼ同時に、不快な重力を伴い車が止まった。
「おう」
佐古が右手を上げながら一言そう言うと、宮間は、それに対し頷きで合図をし、車から出て行った。
今の一連の流れを見ると佐古と宮間の関係が昨日今日で築かれたものではないということが分かる。
……まあ、それが分かったからって別に何かが変わる訳ではないのだけれど。
この車が事故でも起こさない限り僕は、後数時間もすれは菜の花第二病棟とやらに押し込まれ、そこでの生活を余儀なくされるのだから。
「篠崎、お前、後悔してるか?」
ふいに佐古が話を振ってきた。
ウィンドウに押し当てていた頭を佐古の方へ向ける。
「後悔してるのかって聞いてんだ」
佐古は見かけに似合わず優しげな声でそう問う。
「後悔、ですか?」
なんと答えて欲しいのだろう。
どちらを答えても第一声は『馬鹿野郎』と言われる気がしてならない。
「人を殺し、こうやって罰を執行されようとしている、そのことについてなんか後悔してることとかねぇのか?」
菜の花第二病棟までの道中を佐古の説教で費やすのは苦痛だ。
出来れば佐古の望んでいる言葉を言ってやりたいが、如何せん佐古とは初対面で性格が分からない。
……結局は当てずっぽうでこたえるしかないのか。
はぁ、説教だったらイヤだな。
いや、でもまあ、その時はその時か。
「後悔なんてしてませんよ」
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