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「じゃあ、しっかり勤めるんだぞ。時々様子を見に来るからな」
去り際にそんな言葉を残して、佐古と宮間を乗せた車は、見えなくなっていった。
さてと、そう呟いてから地面に置いたバックを肩にかけ、菜の花第二病棟へ向き直る。
ふと二階の窓を見上げると、ここの患者なのだろうか、首筋の大きく空いた服を着た老人がこちらを見ていた。
この遠目からでは性別までは判断することが出来なかったが、一応、会釈だけはしておいて、相手がし返してくれてるかの確認はせずに菜の花第二病棟の入口へと歩を進めた。
「ガラスの引戸か……」
昔、父親に親戚の叔父さんが入院しているという病院へ連れて行ってもらったことがある。
その病院の入口は、重々しい二重扉になっていて、一部屋移動するだけでも鍵を必要とする不気味な場所だった。
そこと比べるとこの病棟は、草木に囲まれていて、鳥のさえずりなんかも聞こえてきて、穏やかな気持ちにさせてくれる空間ではある。
けれど、そう単純なものではないのだろうなってことは、重々承知してなくてはならない。
だって僕は、罰としてここに来たのだから。
「ふう……」
深呼吸してから、気持ちを切り替えて引戸を開ける。
「ごめんください」
なんと切り出していいのか分からず、思わずこんな第一声になってしまった。
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