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カズマは刀を握る手に残っている手ごたえを思い返していた。
好きにはなれない、生々しい感触を。
それでもカズマは侍だ。
人を斬るのもまた、彼の仕事の一つなのだ。そうすることで、民が守られるのだから。
やがて砂埃は晴れた。その地面には、その場から離れるように血の跡が点々とついていた。
アヤメが『土』の術を使った直後のことだった。
春野ヒカリが、町の北門から伸びる広い橋に飛び降りた。
追撃はない。ここらにも外に逃げた忍びを狙い撃ちするために弓兵が配置されていたが、先に逃げた忍びたちがすべて殺してしまっていた。
もう、人を斬らなくていい。殺されるかもしれない不安も、恐怖も、感じる必要は無い。少なくとも当分は。
城壁の外側に広がる国境ともいえる木々の海にヒカリは降り立った。足音を消し、荒くなった息を落ち着かせ、気持ちを落ち着かせる。八回深呼吸をして、闇色の森をヒカリは十歩進んだ。
血のついた刀。血の匂いが消えない身体。落ち着かせてもまだ荒い息遣い。未だに震える足。忍者に似つかわしくない感情を引きずって、ヒカリはそこにいる。
「ヒカリ」
ぞくっと身体中を戦慄が駆け巡る。
気配も何も感じないのに声がする。
手にする刀に力を込めて握り直して、その声の聞き覚えに気付いた。
「水無月さん?」
「遅い。これ以上足を引っ張るようなら捨てる」
ヒカリは何か言おうとした。しかしそれは、言い訳にしかならない。足を引っ張っている事は事実。だから、口をつぐんで耐えた。
「行くぞ。出直しだ」
声に続いて、二人の仲間の忍びも降り立つ。
三人からは血の匂いこそ感じられるが、暗闇の中でも彼ら自身は無傷だと分かる。
「でも、でもアヤメが……」
「諦めろ。これ以上待っていられる余裕はない」
「そんな、あっさりと……」
「アヤメが戻って来れないということは、所詮その程度の忍びということ。それにあの傷ではどうせ助かるまい。助けてもすぐに死ぬような奴を助けに行くのは馬鹿のすることだ」
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