序章と一章の狭間

3/4
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
 人をたくさん殺したのだ。親友を助ける勇気が、なぜ出なかったのだろう。そうすれば少なくとも、一人にさせることはなかった。二人揃って死んでしまえば寂しくなかっただろう。 「助けられなかった……」  そのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。  その日、ヒカリは自室にこもったまま、延々と泣き続けていた。  浅葱の国、浅葱城謁見の間に、各軍の将軍たち計五人が集まっていた。 「忍びは、もうこんなところまで潜り込んできているのか」  鎧を身に、刀を手にする若い男が言った。城の天井裏にいつの間にか忍びこんでいた千桜の忍者五人を撃退した彼らは、部屋の中で今後の対策を検討中といったところだ。 「近衛カズマの様子はどうだ、大村よ?」 「……急所は外れているようですが、当分は戦列への復帰は難しいとのことです」  問われた男、元帥・大村ゲンジは恭しく答えた。 「そうか……。このままではまずいな」  若い男は肩までの長い黒髪が美しく、顔立ちも端正。しかし表情は険そのもの。  浅葱国主・日向カヅキ。  浅葱の手勢は、千桜得意の奇襲・不意打ちによってことごとく壊滅。報告によれば、すでに浅葱軍の防衛線は突破され、いつでも浅葱の国の首都とも言える西方の町に押し寄せて来れる状態だという。  王手、というわけだ。 「だが、負けるつもりはさらさらない。この状況を覆せるような策は考えてある。諸君らにはひとつ、最重要任務がある」  日向カヅキはその場にいる五人の将軍に、細かく折り畳まれた紙を一枚ずつ配り、元帥の大村ゲンジには二枚渡した。 「カズマに渡しておいてくれ。頼んだぞ」  ゲンジはしっかりとうなずいた。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!