序章

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 多勢に無勢の窮地に置かれながらも、表情は無。何事にも関心が無いような、そんな表情。  彼女はそのまま、黒い町を走り続ける。 「奴らはどこだ」  所変わって浅葱城前。  鎧を身に着け、刀を差し、集められた侍たちの前で一人の銀髪の男がそう訊いた。  彼こそは浅葱の国の将軍が一人、近衛カズマ。千桜、浅葱両国が認める猛者の一人だ。 「千桜の曲者は全部で五人。うち二人にはすでに町の外へと逃亡したと伝令ありっす」 「残りの三人は町を取り囲む城壁を西に沿って逃走中。三人とも北にいるそうで」  答える二人の男はカズマの配下の侍たち。先に報告をした、緊張感のあまり感じられない調子の永田。そして後に報告した、緊張が込められているがかなり砕けた物言いの侍が北村。二人ともこんな調子だが、カズマの部下の中で一、二を争う実力者だ。  そんな両名の報告を聞いて、カズマはうなずく。 「急いで北門を封鎖。発見次第、仕留めろ。相手がどんな人間でも、油断はするな!」 「「承知」」  同時に返事をして、それぞれが率いる侍たちとともに走りだす。  約五十本の松明が数個の行灯に導かれ、二手に別れ、カズマの前から離れていく。  それを見て、カズマも動く。  頭に思い浮かべるのは西方の町の地図。  西方の町は、北、西、東側を川で囲まれている。北部から流れてくる大きな川が町の北東部で二手に分かれ、この町を囲むようになっている。ちなみに北側にはほとんど完全に川と密着していて、西側へと流れている。さらには昨日の雨で水位も流れも高く強くなり、人が落ちれば無事では済まないだろう。  だから北部へと敵を追い込めれば、ある程度獲りやすくなる。  彼ら侍衆が北門を封鎖し、挟み撃ちを仕掛けるためにそれぞれ一軍ずつ。上手くいけば、他の部隊とで囲んでしまえる。そうなれば何の問題もないのだが、囲む前に包囲を突破されるのが何度もあるので、そうなれば斬る以外に方法はない。 「……それがしは、また人を斬るのか」  走りながら、カズマは一人、つぶやいた。  無表情な少女が、後ろ腰から二刀を抜いた。  構えは逆手。体術も得意とするアヤメは戦況に応じて順手に持ち替えて闘えるように訓練を重ねてきた。その戦闘技術は大抵の接近戦での状況に瞬時に対応できる。
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