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そして彼女の目の前には三人の侍。
「…………」
敵意を持ちはすれど、それ以外は何も思わない。
殺すことに関しては何も言われていない。が、素早く町から逃げるためには相手をただ殺すのではなく、できるかぎり最速かつ一撃で沈める必要がある。
だからアヤメは、一人目の侍の腕をざっくりと斬り裂き、二人目の腹を刀で斬り裂き、三人目の足の筋を斬った。
途端に上がるうめき声。
その声を背に受け、アヤメは息も切らさずに疾駆し続ける。
「…………!」
アヤメの双眸がほんの少しだけ見開かれた。
視界の先に、町全体をぐるりと囲む城壁が見える。瓦の敷かれた、町を取り囲む城壁の上を、また別の忍びの者が走っていた。
焦り気味な顔に、息切れする身体。
その両手についた血飛沫は、彼女が修羅となって戦ったことを意味する。
――ヒカリ。無事だったのか。
金色の髪の忍び、春野ヒカリは、十四歳にして初めて人を斬ったあとだった。城壁の下に転がるのは侍たちの身体。生死は定かではないが、すでに戦えるような状態ではないことは分かる。
そしてヒカリの後ろを、二人の侍が追ってきていた。
「…………っ!」
アヤメは加速し、城壁の下までたどり着くと、大きく跳躍。城壁は大の男二人分ほどの高さだが、アヤメたちにとっては飛び乗ることは容易い。壁を蹴るように上り、驚異的な身軽さで城壁に飛び乗った。
侍の足など、アヤメの速力にかかればすぐに追いつける。二刀をそのままに、アヤメは城壁の上を駆け始めた。
追いつくまでに時間はかからない。前方を走る侍たちはまさか後ろにもう一人いるとは思わなかっただろう。まして、自分たちの目の前にもう一人忍者がいるのだから、そちらに気を取られて気付けない。
やがて、二人の侍はアヤメの攻撃射程内に入った。
繰り出す攻撃は蹴り。まずは向かって左側の侍を蹴り、矢継ぎ早にかかとで右側の男を蹴る。思わぬ不意打ちを食らい、侍たちは城壁から転がり落ちた。町の北側の城壁の向こうは川。一人は町の方へ落ちたが、もう一人が川へと落ちた。
水音。
「……!!」
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