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反応したヒカリが振り向き、刀を構えた。侍たちの転がり落ちた音に驚いたのか、動作がかなり慌てている。
「……アヤメ?良かった、無事だったんだ……」
それでも、アヤメの姿を認めると、いくらか落ち着いた。
少々長い忍び刀を握る手は、力を抜くことを忘れたように力強く握り締められている。身体ががちがちに固まっているのが一目でわかった。
「……まだ、いる」
アヤメはつぶやく。
「走れ。振り切って、外へ逃げる」
それからでないと、味方たちに被害が及ぶ。
ヒカリはこくりとうなずく。新月の闇の中、黒に慣れた眼は、その動きを映す。
アヤメは、その手を掴んで引っ張った。その手は、汗と血に塗れ、そしてかたかたと震えていた。
「……早く」
促され、ヒカリはもう一度うなずいた。
追っ手はしつこい。でなければ追う意味がない。
どこかにはしごでもかけたのか、次から次へと侍が押し寄せてくる。
「っ……」
そして今、さらに三人の侍が前方からやってくる。
ヒカリは息を飲み、刀を構えて迎え撃つ。隣でアヤメが、やはり無表情で二刀を構えた。
足場は不安定。瓦は滑りやすい上に、平坦ではない。その中でアヤメが前に出た。やや遅れて、ヒカリも出る。
「と、止まれ!忍者ぁ!」
刀を向けて、少女忍者二人をけん制する侍たち。そんな彼らを無視して、アヤメが飛ぶ。
夜に溶けやすい闇色の装束。新月の晩に、灯りのないところでは忍者の姿はほとんど見えはしない。
だから彼らには、消えたように見える。
アヤメの狙いは、一番後ろにいる侍。真上から、侍の頭部を急襲。ぶ、とうめき声を漏らし、侍が屋根瓦に叩きつけられた。
「う、うわああ!」「ぐふぁ!」
その後ろで、男の悲鳴。
春野ヒカリが、残りの二人の侍を斬った。致命傷ではないようだが、そのまま地面へと滑り落ち、動かなくなった。
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