序章

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 さきほどの、アヤメが侍を川に叩き落とした時の水音で、かなりの数の敵が集この辺り集まっているようだ。  だが、もう少しで門だ。そこからなら多少敵が残っていても逃げられる。  ヒカリも怪我しているだろうし、疲れているだろう。できれば早く安全な所に連れて行ってやりたい。アヤメは周囲に注意を払いつつ、後ろで息を整えるヒカリにちらっと目をやった。  その時だった。 「!!」  殺気とともに、ヒカリの後ろから迫り来る侍の気配に気付いた。  ほの暗くても、新月の晩の城壁の上でも、その動きはしっかりと捉えられる。最初の攻撃は、居合い。狙いは当然、侍と最も近い位置にいるヒカリだ。  ――いけない!  アヤメは攻撃の回避よりも、ヒカリの命を無意識に最優先。ヒカリの装束を掴み、無理矢理城壁から町の方へ引きずり落とす。同時、アヤメは迫りくる攻撃に集中する。 「ひゃぅ!」  ひっくり返った悲鳴。ヒカリが城壁から滑り落ち、侍の攻撃範囲内から完全に離脱した。  敵の攻撃は、速い。アヤメの記憶の中でも最速の部類に入る一撃。  狙いは首。一撃必殺を狙う一閃。侍は一瞬で、攻撃範囲から離脱したヒカリから目の前にいるアヤメに狙いを変えていた。  すでにかわしきれない間合いに入っている。だが、致命傷をかわすことはまだできる。  アヤメは力強く後ろに飛ぶ。その刃は少女の胸のやや上を、まっすぐ一文字に斬り裂いた。  浅い。致命傷は避けられた。しかし続いて侍が追撃の太刀を振り下ろす。  これを二刀ではじくものの、その力強さにふらついた。さらに追い打ちをかけ、再び上段から振り下ろす一撃。アヤメはこれを、横に強く跳んで回避した。  横は町。着地し、改めて二刀を構えなおす。やや離れた位置に、松明が焚かれている。後ろには家々。逃げ道は左右に伸びる広い路地一本。横道の一つすら見当たらない。その中でアヤメは逃げに出ず、ただ集中する。  侍が城壁から地面に着地する、その瞬間を狙うためだ。  侍はヒカリに気付いている。彼女に傷を負わせないためには、やはり最速で撃破するに限る。  かくして、敵が城壁の上から飛び降りた。  アヤメは反応する。間合いは完璧。走り出しも悪くない。地面に着地するのと同時に奴の懐に飛び込める。  狙い通りに、敵の着地と同時に懐に飛び込めた。アヤメは侍の首めがけて刀を薙ぐ。が、それは侍の持つ刀であっさりと弾かれた。
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