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できるならば殺したくはないが、忍びがおとなしく捕まるはずもない。
人を刺した時のいやな手ごたえを感じながら、カズマは心中で思う。
こんな幼い少女ですら、戦に駆り出されるのか。千桜はそこまで卑劣な国なのか、と。
カズマは小さな身体を貫いた刀を、より力強く握り締めた。
「くあ……」
身体を貫く刀が、より深く刺し込まれた。
こみ上げる嘔吐感。口内に広がる、鉄に似た血の味。
ごぼ、とアヤメは血を吐いた。
――ここ、ま……で……?
アヤメの身体は自然と『く』の字に曲がる。そこで見えるのは、男の野太い腕、小手に守られた手、その手に握られる柄、そして、自分の体内に突き入れられた刃。根元まで刺し込まれ、傷口から漏れ出る鮮血が、松明の光に照らされて赤黒く光るのが見える。ぽたぽた、ぴちゃ、と地に吸われていくのが見える。
それが、自分に訪れる絶望の運命を物語る。
根元近くまで差し込まれた刀が引き抜かれる。
「けほ……ほ……」
瞬時に体中を駆け巡る苦痛の電流。ほんの少し揺らされただけで、全身が痙攣する。『く』の字に曲がった身体は逆向きに反り、刀が抜けた瞬間に鮮血が噴いた。
まともに呼吸もできない圧迫感が去る。貫かれた部分を中心に苦痛が体中を駆け巡る。
体中の力が抜けていくのが、はっきりと感じ取れる。
意識も、だんだんと薄れていく。眼に映るすべての物が、かすんでいく。その歪みゆく視界の中で、侍の姿を捉えた。
――銀色の……髪……?
光の薄い闇の中で、彼の銀髪が見えた。
と、そのときだった。
「アヤメ……!」
呼ばれ、アヤメは少しだけ目を見開いた。
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえてきた。
自分と同年代の、女の声。息遣いが荒く、上ずっているが、しかしその声の主を思い出す。
――ヒカリ……?
春野ヒカリの声だと悟った時、身体が動いた。
混濁していた意識が、感覚が、少しの間だけ戻った。しかし、それで充分だった。
――そうだ。ヒカリを、守らないと……。
侍も、ヒカリの存在は気付いているはずだ。自分に致命傷を与えた今、次に狙うのは間違いなくヒカリだ。
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