4人が本棚に入れています
本棚に追加
空中にくぎづけされたように動かない蝶に、器用に爪先で立ち、少女はへたりこんだ僕を無遠慮にねめまわす。
まるで養豚場の豚を品定めするような目だ。撃ち抜かれた膝から溢れる血が、ついには僕のズボンまで濡らしはじめたことにすら彼女は気付いていない、いや、興味がないのだろう。
僕の身になにが起ころうとも、彼女には関係がないのだから。
関係がなければ、興味もない。
醜く手足を動かす僕に、くるぶしまで届く黒髪を指先で弄びながら、少女は事務的に口を動かす。
「田坂敬一。残念ながら、君には2012年3月12日午前7時45分、つまり今この瞬間をもって、その人生を全うしてもらう。なお、君には質問する権利がある。……行使するかい?」
最初のコメントを投稿しよう!