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この少女はついこの間、生まれ育った闘技場の訓練所を離れたばかりなのであった。
「隠すようなことではないのだが…俺はできれば、そなたらに説明されて終わってしまいたくないのだ。とても面白い…草場にゆく途中にそれはあるのだが、毎回少しずつだが姿が変わっている。ふえているのだ」
「ふえている」サジは目を丸くした。
「危険なものではないのでしょうね」
「なにかいいものらしいね。…危険なことはしない、昼餉までに戻ると約束していただけますか?」バジルは付け加えた。
「それから、午後の放牧でわたしをご招待くださると」
「承知した」
さっそく駆け足でさってゆくタオの馬を見やると、バジルは乗らずに愛馬を引きながらサジに話しかけた。
「サジが心配するのももっともだが、このごろのタオさまはおそばで見ていてもとても気持ちがいい。ああして様々なことを観察してご自分なりに吸収していかれるのであろう」
「はい」
「お顔もお声の表情も、最初にお会いした時よりずっと豊かになって」
「はい」
「…あえていうなら、ディドーに似てきたねえ」
「…同感でございます」
そのころ、幕家で食事の支度をしていた少年がひとつくしゃみをした。
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