1

4/7
前へ
/7ページ
次へ
タオはいま使っている草場と、皆が待っている幕家のちょうど真ん中くらいの丘にきていた。 馬を繋ぐと、ゆっくりと登ってゆく。 それはあった。 思った通り、普段は作業をする人でいっぱいなのだが、今日は安息日。誰もいない。 無造作に積まれた石材。しっくい。木材。 高々とそびえる柱。 柱。柱と柱の頂点を結ぶアーチ状の飛梁。造成中の飛梁を支える追枠。 ロープで組まれただけの足場。壁。窓枠。モザイク… それは建築途中の新しい礼拝堂であった。 「お嬢ちゃん、なにか用かい」 振り返ると短いひげを蓄えた男がひょろん、と立っていた。 腰からたくさんの仕事道具が下がっている。これから仕事にかかるのであろうか。 「すまない。邪魔をするつもりではなかった」 「いや邪魔だとは言ってねえけどよ。娘さんが面白いかい?こういうの」 「面白い。実は連れを置いて見に来てしまったのだ」 「へええ…建物を作っているところは好きかい?街中の礼拝堂が手狭になったっていうんで、こっちに建て直しているところなんだよ」 「礼拝堂は好きだ。背筋が伸びるここちがする。俺はタオ。羊を追ってこの国に来たのだが、この前の道をよく通るのだ」 「おっと、申し訳ねえ。俺はザクスってもんだ」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加