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「一度近くで見てみたかった。たいそうなものだな」
「おう、もちろんだ。ここはもう50年もこうやって少しずつ組み上げている。まだ50年はかかるだろうぜ」
「…そうか。ザクスどの、そなたも同じ仕事をされているのだろうか。ここの棟梁と思しき男も、同じような道具をつかっていた」
「…よく見ているねえ。うちのやつらもそのくら注意深く仕事してくれりゃあなあ。春の王さまのお城にはいったかい?ほかにはどんな建物が好きかい」
「この国に入るときに一度参上した。…俺の故郷にも城はあるのだが、ずっと居心地の良い、明るい感じであったな。…このような石造りではないが、幕家は好きだ」
「…幕家?」
「羊を多く連れているので、宿屋が使えないことが多い。幕家はこう…木の柱を継ぎ足し継ぎ足し支柱にして、布を張るとできあがる。広げるのは半刻とかからぬがうまく畳む必要があって、しかしそれがまた面白いのだ。それに」
「それに?」
「幕家に住んでいるときのほうが皆と親しく過ごせる気がする。これは俺ひとりの感想だがな。幕家は範疇外か?」
「ああ、見たこともねえなあ。タオちゃんはいまそこに棲んでいるのかい?」
「これでも信心深くてよ、俺もここでこれから仕事するってわけじゃないんだ…ただ」
「ただ?」
「仲のいいのが先週ここで怪我してよ…見に来た。おお案の定ひでえ足場だなあ」
男は自分の仕事場でないといいながら、勝手に現場に入りあちらこちらを叩いたり動かしてみたりしていた。
よく見ると単に検分しているのではなく、巻き上げ機の異物を取り除いたりロープを締めなおしたりしている。それが実に手早く無駄がない。
「…少し見ていてよいだろうか」
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