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まるで熟練の剣士の手さばきのようであった。恐ろしく腕がよく、また仕事を大切にしているのであろう。
ここの現場のものが、明日来てこうした補強がされているのに気が付くものであろうか。
「…それはないな」
タオもさまざまな人の仕事ぶりを見てきた。あきらかにこの男のほうがここの現場を管理しているものより、気が付くのだ。
または働くものの安全に配慮をしない、できないものが取り仕切っているのか。
タオがそんなことを考えていると、男は修繕をしながらぐんぐん上に上がっていった。
飛梁のひとつを見ると手をとめて「…やべえな」とつぶやく。
なにがやばいのだろう。
その時。
足場の梁のひとつが、ばきり、と音をたてた。
「おお!!? うわあ」
大きくバランスを崩して男の体が宙に投げだされる。
同時に追枠がばらばらになった飛梁の石材をまき散らしながら落ちてきた。
男の額が地面に叩きつけられ…
「大丈夫か?」
…地面に落ちたのは額からこぼれた一滴の汗であった。
その額に添えられているタオの手。
今一つの手でなおも落ちてきた石材を跳ね飛ばして「真っ青だ。少し腰を下ろしてはどうか」と続けた。
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