零・ビフォーファイブ

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 「お前が行け」と明らかな視線が集まった所で、この場違いであるところの雪村が損な役回りに立たされる事が決定した。 「あのすいません……」  雪村が声をかけると男は鋭く睨みつけた。ああ、なんで睨まれなきゃいけないんだよと雪村は思う。 「この店、禁煙ですよ? 周りの人迷惑しますしタバコ吸うの控えたらどうですかね?」  客が多くゴタゴタした店内で、気難しそうなこの男が面倒ごとを起こさないようにやんわりと言う。  ああ自分ってお人好しだなぁとため息混じりに男を見る。  雪村は血管が浮き立つのを感じた。会社の営業でこの手の人間の相手は慣れていたが、今は会社員ではない、いっそ殴り飛ばしてやろうと思った。  しかし、この後の待ち合わせあるからなとため息を重ねる。
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