人間の世界と死神の世界

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※※※ 空が茜色に輝いている。 いつの間にか日暮れていた。 僕らは帰り道をゆっくりと歩いていた。 「不思議じゃな」 「何が?」 「儂は死神じゃ。 最初はおぬしの魂を刈ろうと思っていたが、今ではおぬしの魂だけは刈りたくないと思う自分がおる。 儂は死神失格かのう」 「………」 僕は。 この外出計画は大失敗だったのだと思った。 今日だけで人間である僕と死神である彼女は確かに絆が深まったのだ。 仲良く、なってしまった。 仲良くなる事で僕は彼女に殺されてもいいかなと思い始め。 彼女は僕を殺したくないと思い始める。 相容れない二つの感情。 殺されたいターゲットと殺したくない殺し屋。 皮肉なものだった。 「そこまでして、魂を刈る理由って何なんだよ。 別にやりたくない事なんてやらなくていいじゃないか」 僕がこの世界から逃げようとしたように。 逃げてしまえばいいじゃないか。 彼女は少し俯くと、やがて顔を上げて言った。 「生まれ変われるのじゃ」 「え?」 「儂達死神は、人間の魂を100回刈る事で生まれ変わる権利が与えられる。 じゃから、死神達は必死になって魂を刈るのじゃ」 「生まれ変わる…」 そこで、ふと気付く。 さっき、ハンバーガーを食べていたあの時。 彼女は言った。 99人の人間を殺しておる、と。 つまり。 「僕を殺せば、あんたは死神を辞めて生まれ変われるってわけだ」 「まぁ、そういう事になるかのう」 やはり、この世界は理不尽だ。 他人を殺す事でしか己が救われない。 彼女は今までどれだけ苦しんだのだろう。 99人の魂を刈るのに、どれだけ苦悩したのだろう。 それだけで自殺出来そうだった。 彼女の笑顔の裏には、こんなに黒くて黒い死神のルールがあったのだ。
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