灰色の世界と空白の世界

3/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「最期は酷いものじゃったな。 儂もおぬしと同じ、校舎の屋上から飛び降りた」 「………」 『言っておくがな、おぬしのような居場所の無い者は世界に五万とおるし、儂は何人もそのような者達を見ておる。 自分だけが不幸だ、なんて思わないことじゃの』 彼女の言葉を思い出す。 その言葉は、あまりにも自虐的であった。 「こんな話をせず、おぬしが自分自身で考え、悩み、そして生きるか死ぬか、選んで欲しかったんじゃがのう」 「つまりあんたは僕を助けるために、僕を殺しに来たって事か」 それどころか、彼女は今まで99人の死神の卵を救って来たのだろう。 自殺志願者を、導いて来たのだろう。 「死神は辛いからのう。 こんな辛い思いは皆にして欲しくないのじゃ。 と言っても、殺してしまった事に変わりはないがのう」 神様に選ばれず、救われなかった者は、自殺という道を選ぶ。 だがしかし、その選ばれなかった者達を、彼女は救っているのである。 この死神はもはや神よりも神らしい。 きっと世の中の弱者達は、僕を含めこんな神を望んでいたのだろう。 「今わかった。 おぬしには生きて欲しい。 99人救えなかったが、儂は今度こそ真の意味で救いたい。 おぬしは生きて欲しい」 「………」 僕は、何も言え無かった。 僕以上に僕の事を考えている彼女が、僕には眩し過ぎた。 「もうすぐ、儂を捕らえに死神大王がやって来るじゃろう。 おぬしは逃げろ。 そしてもう自殺などしないと誓え」 死神大王の命令に逆らった彼女は、当然罰を受けるだろう。 だがそれは僕にしてみれば理不尽な罰だった。 人を救って、最後に自分は救われない。 そんなの、許せ無かった。 この、神よりも神らしい死神少女を、助けずにはいられなかった。 「逃げよう」 「む?」 僕は彼女の腕を引くと、全力で駆け出した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!