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「じゃあ百歩譲ってあんたが死神だとしよう」
「一歩も譲らずとも死神じゃ。
あと儂の名前はココロじゃ」
そこで疑問が、矛盾が生まれる。
「どうして僕を助けた。
死神って人間を助ける存在だったか?」
死神とはその名の通り死を司る神であり、人間の魂を刈る存在。
悪魔みたいなのだというのが僕の想像である。
「うむ、良い質問じゃ。
儂がおぬしを助けた理由は至ってシンプルじゃ。
率直に言うと、自殺するくらいならその魂儂に刈らせてくれぬかのう」
「………」
どうやら彼女は、わりと僕の想像する死神に近いようだった。
ただ。
「帰る」
「何故じゃー!?」
今更、どうせ死ぬんですから他人(死神)のためにこの命捧げましょう、というような自己犠牲ができる程に僕の心は真っ直ぐではないのである。
興ざめしたのか、不思議ともう一度飛び降りてみようとは思わなかった。
いや、多分単に恐かったんだろう。
あの、落ちる時の感覚が。
死に直面する、あの感覚が。
死への恐怖を知ってしまった僕は、死ぬ事すら恐くなってしまった。
生きる事も死ぬ事も恐い僕は、とりあえず生きる事を選んだ。
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