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自宅。
今僕はアパートに住んでいる。
三人で住むには少し窮屈な狭いアパートだ。
「で、案の定自宅に上がるわけか」
「うむ。儂とおぬしは魂の契約者、いわゆるパートナーじゃからな」
「いや、契約した覚えが無いんだけど」
勝手に契約されていた。
詐欺師もびっくりの不条理さである。
「お茶で構わんぞ」
「………」
いや、どこから突っ込むべきか。
騒がれると面倒だし、適当に買い置きのペットボトルのお茶を渡してやった。
熱いのがよかったのう、とか戯れ言を言いつつも死神少女ココロはペットボトルのお茶(500ml)を喉を鳴らしながら美味しそうに飲む。
「煎餅で構わんぞ」
「僕が構うわ!!」
予想外の図々しさに思わず大声で突っ込んでしまった。
ココロはどうしたのじゃ、言わんばかりに不可思議な顔をしていた。
やはりこの死神には人間の常識が効かないらしい。
僕は半ば諦めモードで茶菓子をとりにキッチンへ向かう。
「………」
ふと、調理器具の中の一つ、包丁が目に入った。
飛び降り自殺が恐いなら、別の自殺方法を考えればいいんじゃないか。
例えば、出血による自殺。
心臓でも突き刺せば一撃だ。
僕はおもむろに包丁を手にする。
その手は僅かに震えていた。
包丁の刃がギラリと妖しく輝く。
そのまま僕は包丁を胸の前に突き立て、深呼吸をする。
再び、僕は自分を殺す。
最大の加害者で最大の被害者に、僕はなる。
包丁の柄をきつく握り締めると、意を決してその刃を思い切り引く。
「何をしておる」
僕の決意に満ちた手を、少女の冷たい手が制する。
冷たい。
血が流れてないのだろうか。
文字通り血も涙も無さそうだ。
「止めるなよ」
「愚かな真似はよすのじゃ」
「離せよ!!」
強く、彼女を振りほどこうと僕は腕に力を込める。
「落ち着くのじゃ!!」
やめろ。
僕は神様に選ばれなかった者。
神様に選ばれず、救われなかった者。
その上死神に目をつけられ、救われる所か殺されようとしてる者。
頼むから、僕を殺させてくれ。
自らの手で、決着をつけさせてくれ。
「うぐぅ…」
「!?」
僕の方へ向いていた刃は、いつの間にか彼女の方を向いていて。
僕の心臓を貫くはずの刃は、いつの間にか。
彼女の心臓を貫いていた。
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