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「もう少し現実的になれよ」
啓斗は呆れた顔をして、はぁと息をついた。
どうやら彼女は良く当たると有名な女性占い師、夜池涼子の未来予知を受けてきたらしい。
彼女はそこで『卑劣な出来事が起こる』という予知を受けたらしいのだ。
「卑劣な出来事って、何の事かしらね」
例えば、啓斗が悪魔になるとか、と彼女は付け足した。
「なんでお前はいつもそう非現実的なんだよ」
「うるさいわね。いいじゃないの別に」
そうやって開き直るのも彼女の特徴だ。
「お前がオカルト好きなのはよく分かったよ。
でも何故俺が悪魔になるんだ」
「啓斗にはね、ユーモアってものが無いのよ。
いつも論理論理って、ああ私の事じゃないわよ、もう少し人生を楽しもうとか考え無い訳?」
「考えてるさ、ただその楽しみ方が違うだけだ」
彼はやや語気を強めた。
それに対し返す言葉を無くした論里は席を立ち、顔を膨らせて肩を竦めた。
「あーあ、論里だなんて、こんな名前で産まれてきた私が馬鹿だったわ」
彼女は前髪を手で払いのけ、左右に揺らしながら黒板の方向へ歩いていった。
疲れる奴だ。
しかしこの恨めない性格が嫌いでは無かった。未熟、とか無邪気、というのが彼女にピッタリな言葉だろう。
歩いていく彼女の背中を見ながら啓斗は自席に着いた。
最後列の通路側、教師の目に留まりにくい場所だ。
ここでよく本を読んだりしていた。
不意に閉まっていたドアが開いた。
冷風が足を触った。
入ってきたのはロングヘアーの茶髪の女性、彩音真里だ。
普段からおしとやかな性格で、教師達からも支持を受けている。
「おはよう」
こちらから声を掛けてみた。
彼女は論里と仲がよいので、しばしば面識があった。
彼女は少し驚いたような顔をしてこちらを振り向いたが、やがて静かに会釈をした。
元気が無い、それが率直な感想だった。
どうしたの、と声をかけようとした時、調度論里が戻って来た。
「ああ真里」
しかし、彼女の声にもやはり答えず、軽く頭を上下に動かしただけだった。
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