苦々しい思い出

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苦々しい思い出

 古びた町並。海岸沿いをバスが走る。このバスに乗って、真に逢いに来たそんな遠い記憶が蘇る。潮の香りがする・・・。  あの日と同じだ。こんなにも、鮮明な記憶が残っていようとは、自分でもその事に驚いていた。 《あの日、彼はこの場所で私を捨てた》  真が、以前付き合っていた和美をまだ好きだと言うことは何となく気が付いていた。  私と対照的な、綿菓子のような少女。    長く伸びた髪が、風に揺られて、ほんのり赤らんだ頬は一層彼女の可愛らしさを協調していた。    大きな瞳に、いっぱいの涙を溜めて彼女は私に『真をとらないで』と言った。お腹を庇った左手に、銀色に光るものを見た時、私は何もかもを悟る事となる。  それは、いつか真にねだって、路上で買ってもらった玩具の指輪とは大違いの、見るからに高価そうなダイヤの指輪だった。   嘘つき・・・心の中でそう呟く。  この時、真の言っていた事は何もかも嘘だったと私は知ったのだ。   『和美とはもう何もない。お前が好きだ。』そんな言葉を私はずっと信じていたのに、このザマは何だろう。  思わず私は真の顔を見たが、真は私から気まずそうに目線を外し、まるで他人のようにこちらを見ようとはしなかった。確かあれが、真と会った最後だ。
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