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そんな心の動揺を知らずに、落ち着きを取り戻した哲司は親族の方を見て、私に目配せた。
さっきまで、空席だったその席を促されるままに見ると、私はまるで、電気が走ったように、動けなくなる。
そこには、真が居た。いや、正確には真の息子が居た。初めて見るその子は高校を上がる頃だろうか?もう立派な青年だ。
あの時の和美の左手で庇われたあの子が、もうこんなになっている。
真によく似た青年は、私の知り合う少し前の、まだどこかあどけなさが残った真そのものだった。
おかしなもので、その青年を見た途端、妙な懐かしさが込み上げてきた。
先ほどの遺影よりも、ずっと真に似ている。和美の容姿は余り受け継いでいないようだった。
私はその面影からまるで、タイムスリップしたようなそんな衝動に駆られた。
《あの時、和美がお腹を庇ったあの子は、もうこんなになっていた。》
一体、私は何をしていたのだろう?考えてみれば、私にもこんな子供がいても可笑しくなかったのだと、そんな当たり前の事に、衝撃を覚えた。
青年を見て驚く私のその様子に哲司は良く似ているだろう?と言いながら、
「和美は来ていないけど、昨日、通夜には少しだけ顔を見せたよ。今日は息子をよこしたんだね。あいつの若い頃に、似ているだろ?
さっき、形見にコレを渡そうかとも思ったんだけど、和美の気持ちもあるだろうし、渡せなかった。」
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