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読経が始まった。
私は静かに目を閉じる。
ここに着くまでは何も感じなかったはずなのに、急に涙が頬を伝って落ちた。それは、とても静かに自然に・・・・。
「奈津美、今度働いて、給料が入ったら、でっかい、すっごい指輪を買ってあげるからね。」
「あはは!期待しないで待ってるね。」
「ぁ!お前、今、馬鹿にしたろ?」
「してないしてないって!」
「いや、絶対、したね。」
「ん~・・。じゃあさ、手始めに、アレ買って!」
私がそう言って指を指したのは、露天で並んだガラスの付いた指輪だった。
「やだ!こんなのしか、アイツ買ってやれないのかって、人から言われるからやだ!アレは買わない!」
「けち~!買って!買ってよ!」
「やだ!!買わない!」
余りにも、子供のように露天商の前で私が騒ぐので、根負けした真は、しぶしぶソレを買ってくれた。
じっと真と指輪を交互に見る私を見て「指に付けてはやらねぇぞ!それは、次回!」
とそう言って、ポイと、私の手に、ソレを渡した。
あの指輪は、真と別れて暫くしてから、従姉妹の娘が酷く気に入ったので、持って帰らせた。
ソレは子供にでもあう、フリーサイズの安物の指輪だ。
彼女はそれを遊びに使っていたが、その後どうなったかは判らない。恐らく直ぐに壊れてしまっただろう。
指輪を子供にあげたその日に、私は髪を切った。
真が誉めてくれた私の長い黒髪は和美を真似たものだった。
どことなく真が和美を忘れられない様子だったので、彼が側に居てくれるならば、例え和美の変わりでもいいと・・・
演歌のような事を思い、当時私は和美と同じ、ふわりとしたロングヘアーにしていた。
断髪式など、若い娘の感傷的な儀式と言えば、それまでだが、真が誉めてくれたから、ずっと切れずにいたその髪は、それ以降、伸ばしてはいない。
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