別れ

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 「ねえ、真。私と付き合う前、和美と付き合っていたんだよね?」  「なんだよ?急に?」  「うん。何か、気になって・・・。」 いつも真の話には、和美の話が多い。  だから私は真が私の元から消えてしまうのが不安で仕方なかった。  「付き合ったのは少しの期間で、心配する事なんて何もないよ。馬鹿だね。もう和美なんて関係ないよ。」  「そう?」  「確かに、和美の事は好きだったし、和美も思ってくれていたみたいだけど、俺には今、奈津美がいるでしょ?」  「うん」  「だから、くだらない事を考えないの!」  真はそういつも私に言ったが、和美の話をする真の瞳は、その言葉とは裏腹になんだか、とても輝いて見えた。  だから、私は益々彼女に嫉妬した。そのくせ、真には出来るだけ気付かれないように振舞っていたように思う。  あの時、私は、問い詰めれば、それだけ真の心が離れてしまうのが、恐かったのかもしれない。  葬儀は、粛々と行われ、僧侶の、長い読経が続く。  親族の焼香が終わり、一般の私も焼香を終えた。焼香の後、親族に軽く一礼したが、近くで見れば見る程に真の息子は彼に似ていた。  よく喧嘩をするのだと、真が愚痴をこぼしていた厳格な父親の姿が見受けられないのは、恐らく他界されての事だろう。  真の母親は憔悴しきっていたが、想像よりも若かった。成る程、和美とまだまだ遣り合えるような少しきつそうな感じの人である。  人の人格というものは、人相である程度の推察は出来る。和美もさぞ大変だった事だろうと、そんな印象を持った。  漸く長かった読経が終わり、出棺の時が来た。最後の時間だ。    一般の私達の手元にも、小さく切った花が手渡される。それらは死者の棺に入れてやる花だ。  私達は一般なので、花を受け取るかどうかは、その人の意思によるのだが、迷う事無く私は花を受け取って、哲司が並んだ後に続いた。  これで最後なのかと思うと、段々と悲しみが込み上げて来る。  そこに眠る人は、不意の事故死ではあったものの、意外にも安らかな綺麗な顔をしている。  私は、彼を見つめながら、静かに最後の別れを告げるのだった。
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