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駅まで送ってやるという哲司に丁重にお礼を述べて、私は一人でバス停に向かう。
哲司は、又、今度ゆっくり逢おうと言い、夫婦で待っているからとそう言ってくれた。私は彼にもう一礼してから、大きく手を振った。
歩く道すがら、昔、真と立ち寄った古い喫茶店の前を通った。
美味しそうに、コーヒーを飲む若かった彼の顔が懐かしい。
お茶でも飲めるのかと覗いたが、どうやら、もう辞めてしまっているようだ。
ボロボロのテントには偶然にも店の名前が「再会」と書かれていた。
最後に一人きりでここを訪れた時に、私はこの店に立ち寄っている。
当の真に連絡をとれるはずもなく、又、取るつもりもなかった。 ただ、苦手なコーヒーを真を真似て注文しブラックで飲む。
ほろ苦いコーヒーの味に、こんなものの、何処が美味しいのかと不満だったが、真がそこに居るようで、無理をして最後まで飲み干した。
あれから、気が付けば二十年近い時間が、過ぎていた。真の子供があんな立派になっているのだから、それも不思議ではない。
店の前を通り過ぎ、裏道に入ると、そこに海岸がある。
表通りはバス通りだが、バスが来るにはまだ少し時間があった。
久しぶりに立った砂浜は、遠くに数人、ウインドサーフィンをしている若者がいる程度だ。
海に来るにはまだ早く、そこは閑散としていた。
波がそんなにないので、サーファー達は、プカプカとボードの上で浮いている。
夕刻になって日差しも穏やかで、少し肌寒い。
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