苦々しい思い出

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 あれから何度か真を思い出した時、私は気まぐれに一人で電車を乗り継ぎながら、このバスに乗ってこの地を訪れた。    最後に来たのは、五月が近かったのだろうか?あふれ出た涙は止まることなく、ようやく落ち着いての帰路、この道の何処かで、大空を泳ぐ鯉幟を見た。  真と和美の子供は、男の子なの だろうか?女の子なのだろうか?男の子ならもう直ぐ、初節句だと、ぼんやり、ソレを眺めた。  そうして何年かが過ぎ、真の記憶はついに私の中から遠くに薄れて、いつしか消えてしまう事となる。  後々聞いた話しによれば、真と和美はその後すぐに結婚をし、子供が産まれたという。真とよく似た男の子だと人伝に聞いたが、二人の生活は恋愛中とは一変し、随分違ったものだったらしい。  酷く冷め切った二人の間には金銭間のトラブルもあった。経済的な事も手伝って、真が仕事で家にいる時間も限られたという事が、益々、二人の溝を深める事となる。    結局、二人は十数年を供に過ごしたが、和美があっけない程簡単に、子供を連れて家を出たのは、三年前の事だった。     一方、私は他から、そんな噂が入りはしたものの、さして特別な感情や思いは無かった。   手がけていた仕事が順調に運び、あれから私はささやかな成功を収めていた。    恋愛もそれなりにはしたが、生憎、結婚までは至らずにいる。けれど、私は今の生活に、十分満足していたし、結婚に至らなかった理由も、真とは全く無関係なものだ。    何せ、私はつい先日まで彼の存在すら忘れ去っていたのだから・・・。
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