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私は、今より幸せだったのだろうか?この男はどうだったのだろう?
私は余りにも年月が流れ、風貌の変わった、見知らぬ男の遺影に、少々戸惑いつつ、遺影から、目をそむけた。
「可哀想にな。まだ、若いし、これからって時なのに・・。」
「和美は、来てないな・・・・」
会場ですすり泣きと供にそんな声が聞こえる。あまり知った人も居ず、借り物の子猫のように、居場所を見つけられなかった私は、仕方なく連絡をくれた哲司を探した。
どこにいるのだろうか?さっき受付にも見当たらなかったが・・・と、そう思って彼を探していると、哲司は、奥の方から私を見付け、手を軽く上げて寄って来た。
「来てやってくれたんだね。」
「うん」
私は、哲司に言葉少なく頷いてみせる。哲司と私とは、以前は飲み友達で、昔はよく真や仲間達と遊んだ仲だ。
極たまでは有るが、未だに交流があったのは、彼の妻が以前、私と同じ職場の縁で、年に一度ほど連絡していたせいだ。
「よく、来てやってくれたね。奈津美はもう真とも随分と会っていないから、知らせるべきかどうかと迷ったんだけれど、真は随分と奈津美に会いたがっていたから、声をかけさせてもらったよ。」
「奈津美に逢えて、きっと奴も、喜んでいるだろうな。あいつは、いつも奈津美の事を、聞いていたから・・・。ずっと会いたがっていたから・・・。」
哲司が私に向かってそう言い、こう続ける。
「こんな事になるなんて・・・。和美が子供連れて出て行った頃は、あいつ、かなりへこんではいたんだけれど・・」そう言った後に、彼は言葉を詰まらせた。
さっき誰かが話していたのと同じだと思いながら、哲司を見ると、哲司の目に涙が浮かんでいた。私は、しおらしく、頷きながらその話を聞き入る。
別段、感情がそこにあるという訳ではない。ただ、この場にそれが、相応しいと思ったからだ。
哲司と真が、今日に至るまで、親友であったのは良く知っている。二人は幼友達で、子供の頃から家族ぐるみの付き合いがあった。
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