訃報

3/8
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
私は、今より幸せだったのだろうか?この男はどうだったのだろう?    私は余りにも年月が流れ、風貌の変わった、見知らぬ男の遺影に、少々戸惑いつつ、遺影から、目をそむけた。  「可哀想にな。まだ、若いし、これからって時なのに・・。」 「和美は、来てないな・・・・」  会場ですすり泣きと供にそんな声が聞こえる。あまり知った人も居ず、借り物の子猫のように、居場所を見つけられなかった私は、仕方なく連絡をくれた哲司を探した。  どこにいるのだろうか?さっき受付にも見当たらなかったが・・・と、そう思って彼を探していると、哲司は、奥の方から私を見付け、手を軽く上げて寄って来た。  「来てやってくれたんだね。」 「うん」  私は、哲司に言葉少なく頷いてみせる。哲司と私とは、以前は飲み友達で、昔はよく真や仲間達と遊んだ仲だ。  極たまでは有るが、未だに交流があったのは、彼の妻が以前、私と同じ職場の縁で、年に一度ほど連絡していたせいだ。   「よく、来てやってくれたね。奈津美はもう真とも随分と会っていないから、知らせるべきかどうかと迷ったんだけれど、真は随分と奈津美に会いたがっていたから、声をかけさせてもらったよ。」  「奈津美に逢えて、きっと奴も、喜んでいるだろうな。あいつは、いつも奈津美の事を、聞いていたから・・・。ずっと会いたがっていたから・・・。」  哲司が私に向かってそう言い、こう続ける。 「こんな事になるなんて・・・。和美が子供連れて出て行った頃は、あいつ、かなりへこんではいたんだけれど・・」そう言った後に、彼は言葉を詰まらせた。  さっき誰かが話していたのと同じだと思いながら、哲司を見ると、哲司の目に涙が浮かんでいた。私は、しおらしく、頷きながらその話を聞き入る。    別段、感情がそこにあるという訳ではない。ただ、この場にそれが、相応しいと思ったからだ。  哲司と真が、今日に至るまで、親友であったのは良く知っている。二人は幼友達で、子供の頃から家族ぐるみの付き合いがあった。    
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!