訃報

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「これ、奈津美が選んでくれたの?」  「うん。気に入ってもらえるかな?タイピンってする人としない人いるし、おじさんっぽいかな?」  不安になりながら、そう言うと、嬉しそうに真は、  「そんな事ないよ。だって、奈津美が選んでくれたんでしょ?とっても気に入ったよ。ありがとうね。これをして、入社式にでるからね。」    と、そう言いながらニッコリと笑った。  そして、真はタイピンを持って、  「コレをして仕事を頑張って、いっぱいお金が溜まったら、奈津美をお嫁に迎えに行くから、それまで待ってるんだよ。」とそう言う。  あの時、真が私を覗き込むような仕草で、少し照れたように笑ったのを思い出す。  私は心臓がドキドキと高鳴り、真が眩しかった。優しくて、切なくて甘いそんな思い出だ。  いつも、真の笑顔を見る都度、私はいたずらっ子の様な彼の瞳の奥に吸い込まれそうな気がしていた。  確かに私はあなたが好きだったと思う。あんなにも、純粋にあなたが好きだった。忘れ去られていた記憶が、また一つ、胸の中で溢れた。  「奈津美?」  私はその声に我に返った。  そこには心配気に私を覗き込んでいる男の目がある。勿論、それは真ではない。哲司である。  「どうした?気分でも悪いのか?」    そう言った後、フト私の目線に気が付いたのであろう。 自分の胸元を見て「ん?コレ?」と、小さな声でそう言うと、哲司は、タイピンを外した。
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