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「ボール」
「……!」
呼吸が出来ない!
顔も見れないよ!
……え? ボール?
ここにきて、ようやっとボールの存在に気付いた。
私の左足、十センチぐらいのところに白くて、所々茶色に汚れた野球の玉が揺れている。
あ、ああ! ボールね! ボール。
屈んで、拾って、渡す。そう、実に簡単よ。頑張れ私。
あ、あれ? ただそれだけの事がこれほど緊張するとは。
情けない。
無い根性を振り絞って拾う事が出来た。
手に収まったボールは、激しい体育会系の練習で、その体をボロボロにしている。
そのボールを意味もなく眺めて握りしめていると、男子の手が目の前まで差し出されていた。
慌ててその手へボールを置く。
練習で汚れた、ボロボロだけど、私の手なんかよりも存在意義のある手へ。
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