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外では桜舞い散り、少しだけ開いている窓の隙間から優しい花の香りと男子の場所取り合戦の声が流れ込んでくる。
昼のチャイム後、少し時間が経ち閑散とした教室で私の視界は滲んできた。
「う、う、う」
「ちょっと、どうしたの?」
心配そうでいて少しだけうんざりした顔が、昼の日差しを照り返しながら優しく私を覗き込む。
「う、うばばばばぁー!! あー!」
「うわ! ちょ、な、なに? 何なの!?」
「あー! あうー!」
涙で濡れた私の顔を見て、肩から長い髪を滑らせながらゆっくりとため息を吐いた。
そんな彼女にしがみつく。
「汚い。あたしの服で拭くな」
「ダジャレ……」
「う、うるさい!」
うるさい、と言いながら、私が持っている物に目を向けた。
「また、紗江(さえ)お得意の小説?」
「ヴン……バッドエンドだった」
「いや、バッドエンドじゃなくても泣いてるでしょ」
「ヴン……」
持っている小説を抱きしめた。
小説の主人公がトランペットを抱いていたように。
「大事そうに抱えなくても取ったりしないって。とりあえずこれで顔拭いて。男子に見せらんないよ。その顔」
ポケットティッシュを差し出しながら笑っている。
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