第五章 暴露

2/13
468人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
「俺……何、やってんやろ」 山崎はまるで後悔するかのように、自分の額を触った。小さく、傷がついていて少し痛い。 その手には、濡れた手ぬぐいが握られている。 山崎は悶々としながら、横に寝ている笹川に目を向けた。 何故、この状況になったのか、事は一刻前に遡る。 「一々喚くなよ」 笹川はそう言って、山崎の耳元で一つ一つ、説明し始めた。 「まず、私は笹川彼方。職業は作家と女中。性別は女。他に私について知っていることは?」 「父親と旅をしていた。姉がいる。岡田以蔵……長州藩との繋がりがあり」 「……じゃあ、私の生い立ちから話そうか」 笹川は青白い顔をしながら、低い声でそう言った。 笹川は普通の家庭で育ったが、歴史の武士に憧れを抱き、時を越えた女の子の話をした。 説明するより話を飲み込み易いだろうという配慮だ。 「そして、最初に汚い袴を着た男に出会った。 それが、岡田以蔵だった」 無口な男だった。 当時はまだ、人斬りではなかった。刀を向けられて、死ぬかと思った。 そして、岡田以蔵は笹川彼方のデビュー作品のモデルとなった人物だ。 人斬りな彼は不器用で優しい人物だった。 笹川は一通り話すと目を細める。 山崎はどくどくと嫌な音がする心臓に困惑していた。 つまり、笹川は先の時代から来た人間ということか。だから、こんなにも常識離れしているのか。 今までの理解出来ない発言や、物、考え方。まるで、全て見通してるような視線。 何故、誰も気付かないのかとずっと思っていた。 笹川は何処か普通じゃない。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!