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次の日。
土方から許可をもらった笹川は、咲を連れて町へ繰り出していた。
「咲、仕事には慣れてきた?」
「はい。お春(はる)さんもとても優しいです」
お春とは、元からいた女中である。
笹川も初日に挨拶をしたのだが、可愛らしい鹿のような感じの女子だった。目がくりっとしていて、桃色の着物が良く似合っていたのが印象的であった。
笹川的には、まぁ私の好みじゃないな……という認識であったが。
「手も荒れ始めてるし……この頃、疲れてない?」
「あ……いえ、大丈夫です」
(っていうわりに、顔色悪いんだよな――)
笹川が今回休みを入れたのは、咲の事が心配だったからだ。近頃、咲の顔色が悪く、妙な失敗することが多くなった。
流石に一週間もいれば現代の家族が恋しくなっても不思議ではないし、思い悩むことがあるのも分かる。
そこで気分転換も兼ねて、一緒にデートをしに来たということだ。
会話をしながら、とある店に入ると咲は感嘆の声を上げた。
「うわぁ!凄い」
色とりどりの着物が沢山かけてある。絵柄の種類も豊富だ。
「流石、本場のやつは違うねぇ。和むわぁ」
笹川は胸元からメモ帳を取り出して、シャープペンをさらさらと動かした。
――現代にはない渋く、深く、鮮やかな色彩が店ね中を飾って――
夢中になって書留めていると、店の者に声を掛けられて顔を上げた。
「お客さん別嬪やねぇ」
「この子にあう着物を見繕ってほしいんだけど」
「はいよ」
そして、咲と二人で好きな着物を選び出した。
「これ、咲に合うんじゃない?」
オレンジ色、黄色、菊の花、月、兎など色々な着物を進めてみる。
咲ははしゃぎながら、着物を見ていた。
「笹川さん、これ可愛くないですか!?」
兎と綺麗な花柄の明るい黄色の着物。
それを一瞥して、笹川は嬉しそうに笑った。
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