第三章 節穴

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その顔はニタリでもなくニヤリでもない、目を見開き、口元を最大限に上げて笑っている。 目は男を確実に捕らえていて、それを見ていた山崎は汗が吹き出るのを感じた。 (……俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ、糞ガキがっ) 何故だろうか。 山崎は笹川の心が読めてしまったことが、薄気味悪くて仕方ない。 「――しかし、まぁ、皆さん良い体してますねぇ」 笹川は目だけを細めて男の首に手を添えて、今度はいやらしく笑い、自分の下唇を舐める。 すると男はうろたえ、小さく悲鳴を上げながら逃げて行く。 他の仲間も、笹川に何か言いながら走り去って行った。 (……なんなんや、あいつ) 山崎は笹川に対する疑問が膨らんでいく気持ち悪さに、自嘲して再び監視を始めた。 「ごめん、変な助け方して。 大丈夫?何かされてない?」 「大丈夫ですっ。有難うごさいました」 笹川は表情を一変させると眉を寄せて咲を心配している。 いつも通りだ。 そこに店の亭主が声をかけた。 「――お客さん、さっきの話なんやけど、土佐の方でっしゃろ?」 さっきの話――? それはなんだと思い、話し声に耳を澄ませると笹川は土佐の誰かを探しているらしい。 亭主は「もしかしたら分かるかもしれない。後で文を出す……」と笹川に言った。 何か掴めそうだと思ったが笹川は自分からはぼろを出さない。 お礼を言って、また移動し始めてしまった。 次の行き先に期待するか……。 二人は壬生寺に向かった。 笹川は何やら子供達に追いかけられて怒られていたが、鬼の話をして機嫌を取っていた。 咲は子供達と混ざって笹川の鬼の話に聴き入っている。 結局、二人は夕方になると屯所に帰って行った。 山崎は副長室を目指しながら廊下でため息をつく。 「……そもそも、あいつ隠すつもり無いやろ」 まるで疑っても無駄だと言われているようで、正直見張る意味があるのか分からない。
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