第三章 節穴

6/14
470人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
(それに、あいつ苦手なんよ……) 山崎が笹川に対して酷いことを思っていると、土方と笹川の声が部屋から聞こえて来た。 今は夜中。 監視の報告の為にわざわざこんな時間に来たというのに、何故、笹川がいるのか―― 「――なわけねぇだろ!」 「え!土方さん、男色じゃないんですかっ!」 (……何をしに来たんや) 山崎は、思わず足を止めて聞き耳を立てる。 「だって、私、土方さんは沖田さんにぞっこんだと思ってました。 気持ちが届かないから、女で気を紛らしているもんだとばっかり……」 「……お前、本当は男だろ。 女じゃねぇよ、その面は」 「女より綺麗な顔してる貴方様に言われたくないです」 (何なんだ、この会話は) 山崎は怪訝そうな顔のまま、とりあえず声をかけてから襖を開けた。 「――山崎さんっ、こんばんは」 笹川はキラキラした目で山崎を見つめ、すぐに立ち上がった。 「では、私は失礼します。おやすみなさい。 土方さん、また聴きに来ますね」 ニッコリと笑う笹川に、土方はボソッと「来なくていい」と呟く。 何か、土方がやつれたように見えた。 笹川が出て行ってから二人がため息をついたのは言うまでもない。 「笹川はある人物を探しているようです」 「誰だ、そりゃあ」 「――岡田以蔵。人斬り以蔵です」 人斬り以蔵というのは、その名の通り人を殺すことを躊躇わない土佐脱藩の男だ。 山崎が調べたことを話すと、土方はほうと言って口元を緩める。 それがいつかの笹川に重なって山崎は顔を歪めた。 「土方さん。 笹川には見張りをつける程、何かあるんですか?」 常々思っていたことを聞いてみるが、土方は意味深に微笑むだけ。 結局のところ、山崎の監視生活はまだ続くのだった。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!