第三章 節穴

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「土方副長が呼んでいましたよ。咲」 全く気付いていないような表情で、咲にそう言った。 咲は少し安堵したように、手を後ろの方に隠す。 「分かりました」 (手に怪我してんな……多分。) 「あ、咲。お茶、三つ持っていきな」 「はい」 今の時間なら土方も山南も近藤もいるはずだ。必然的に手を出すことになるから、誰かしら怪我に気付くはず。 笹川はひそかに口角を上げた。 「お春さん。この後、時間ありますか?」 お茶を入れ始めた咲を横目に、後ろ姿のお春に話しかけると咲のなにか言いたげな視線を感じた。 「この間、美味しい甘味屋を見付けたんです」 「……いいですねぇ」 (胡散臭い笑顔だな) お春の笑顔を見ながら毒づくが、勿論顔には出さない。 笹川は甘味屋に行く約束をして、咲がお茶を持って厨から出て行くのを確認してから、さりげなく立ち去った。 箒を持って、咲の後を追う。 周りからは仕事をしているように見えるだろう。 実際、咲も笹川がただ仕事しているのだと思っていた。 咲が土方の部屋に入るのを見て、笹川は掃除しながら観察する。 暫くすると、土方の怒鳴り声が聞こえて来た。 (……土方さんに怒られてる、か) 笹川の思惑通り、土方達は咲の怪我に気付いたらしい。 それから山南さんが部屋を出ていき、すぐに救急箱らしき物を抱えて戻っていった。 その少し慌てた山南さんの様子に、笹川は胸がざわざわするのを感じた。 (もしかして、酷い怪我なんだろうか……) 「……それは、嫌だなぁ」 「何がですか?」 「――うわぁぁあ!」 独り言に帰ってきた答えに思わず箒を取り落とす。
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