第三章 節穴

10/14
前へ
/223ページ
次へ
何処から、いつからいたのか―― 沖田は笹川の後ろから「そんなに驚かなくても」と苦笑した。 挙動不審になりながら箒を拾うと、笹川はぎこちなく笑った。 「怖いな……じゃなく、沖田さんはどうしたんです?」 「怖いって聞こえましたけど」 「ははっ、すみません。つい本音が……」 (はたして、本当のことを、咲について言うべきか…… 沖田にも念を入れて、咲を守ってもらおうか。 ……そうしよう) 「沖田さん、嫌な予感がするんだ」 空笑いを止めて声低くそう言うと、沖田からの気配が変わる。 「これから、何かが起こる。なんか、私にとって一番面倒なことが。 だから、咲のこと監視してくれないか?」 「監視……ですか」 「私が咲と一緒にいないとき、気にかけてやるだけで良いから」 笹川が沖田の目をじっと見ていると、沖田は笑った。 「――良いですよ」 笹川は少し、苦しくなった胸を抑えた。 ――沖田の笑顔が本物か分からない―― 嘲笑うように蔑むように、笑われた気がした。 「良かった。有難うごさいます、沖田さん」 すべてを隠すようににっこり笑うと、タイミング良く咲が土方の部屋から出てきた。 笹川の姿を見て、走って来る。 「笹川さん、土方さん呼んでないそうですよ!」 「いやいや、呼んだって。まぁ、あの人も三十路だからね。 忘れても仕方ない……」 「……一人で会うの初めてだったから、超怖かったです」 沖田が「ちょう?」と言っているのを無視して、笹川は言った。 「それより、私これからお春さんと出かけてきますから、後のこと頼みましたよ。 沖田さんも……ね」 笹川はまた、にっこりと笑いクルリと二人に背を向けて歩き出した。 「……手ぬぐい、両手に巻いてたな。後で、お礼に行かないと」 次の瞬間、笹川の笑顔は剥がれ落ちた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

471人が本棚に入れています
本棚に追加