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「お春さん、すみません。遅くなってしまって」
「私も今来たところや。
……なんや、笹川さんいつもと違うなぁ」
笹川は、いつもの臙脂色の羽織りではなく、咲の桃色の羽織りを着て、いつも上でしっかり結っている髪を下で軽く結んでいる。
咲の羽織りは、何故か本人が笹川に無理矢理貸してくれた物だ。
「羽織りの色が変わっただけですけどね。
それより、行きましょう」
笹川が手を差し出すと、お春は首を傾げる。
なんの躊躇いもなくお春の手を取ると、そのまま歩きだした。
「……さ、笹川さん?」
お春は、頬を赤くして上目づかいに笹川を見た。
笹川は忘れている、いや、気付いていないのだが、お春は笹川が男だと勘違いをしている。
「こっちの方があったかいでしょう?」
お春は何やら熱っぽい眼差しで、握られた手を見ていた。
それを見て、唖然としている男が一人。
言わずもがな、山崎である。
「なんやあいつ。
ほんまは男やないか……?」
今日もまた、商人の格好をして笹川を尾行しているのだが、先程から、笹川とお春が笑い合う様子しか見えない。
それも、仲睦まじく。
(……お前達は恋仲かっ!お春さん、あんたは騙されてるんやっ。顔赤くして、笹川見るんやないっ!!)
ひたすらに突っ込みたい衝動と腹立たしさを抑え、じと目で二人を見る。
暫くすると二人は甘味屋に入って行った。
山崎もあとをつけ、笹川とお春の斜め後ろの席に座る。
「みたらし二つ、あ――お願いします」
「あいよっ」
「笹川さんは、よく甘味屋に?」
「あー、あまり来ませんね。一人来ても、美味しくないですし……」
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