第三章 節穴

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「お春さん、すみません。遅くなってしまって」 「私も今来たところや。 ……なんや、笹川さんいつもと違うなぁ」 笹川は、いつもの臙脂色の羽織りではなく、咲の桃色の羽織りを着て、いつも上でしっかり結っている髪を下で軽く結んでいる。 咲の羽織りは、何故か本人が笹川に無理矢理貸してくれた物だ。 「羽織りの色が変わっただけですけどね。 それより、行きましょう」 笹川が手を差し出すと、お春は首を傾げる。 なんの躊躇いもなくお春の手を取ると、そのまま歩きだした。 「……さ、笹川さん?」 お春は、頬を赤くして上目づかいに笹川を見た。 笹川は忘れている、いや、気付いていないのだが、お春は笹川が男だと勘違いをしている。 「こっちの方があったかいでしょう?」 お春は何やら熱っぽい眼差しで、握られた手を見ていた。 それを見て、唖然としている男が一人。 言わずもがな、山崎である。 「なんやあいつ。 ほんまは男やないか……?」 今日もまた、商人の格好をして笹川を尾行しているのだが、先程から、笹川とお春が笑い合う様子しか見えない。 それも、仲睦まじく。 (……お前達は恋仲かっ!お春さん、あんたは騙されてるんやっ。顔赤くして、笹川見るんやないっ!!) ひたすらに突っ込みたい衝動と腹立たしさを抑え、じと目で二人を見る。 暫くすると二人は甘味屋に入って行った。 山崎もあとをつけ、笹川とお春の斜め後ろの席に座る。 「みたらし二つ、あ――お願いします」 「あいよっ」 「笹川さんは、よく甘味屋に?」 「あー、あまり来ませんね。一人来ても、美味しくないですし……」
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