序章

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春の陽射しは柔らかく、山間の谷を彩る木々には花が咲き乱れていた。 そよぐ風に乗り、桜の木々からは花びらが舞い吹雪くように散っている。 赤子を抱いた男が、舞い散る桜を背に、まるで恐ろしい物を見るような形相で手の中にあるモノを見ていた。 どれほど幻想的で美しかろうと人里からは、遠く離れたこの場所に物見遊山で訪れる人など居ない。 こんな山奥に人がもし立ち寄るとしたら、何か都合の悪い物を捨てる時だと決まっている。 それが、赤子だろうと年寄りだろうと関係無く、居ては困る者を帰れぬ場所に置き去りにし山の獣に食べさせ怨鎖を断つのだ。 ,
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