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そして、二時間が経った。その間はずっと二人と話していたのだが、やはり恵の名を出すとビクッとする。
新たなタブーが出来た。
「おまたー!」
恵がドアをぶち壊すんのではないかという疑問ができるほど思い切り開けた。
「服は車に積んどくようにみんなに頼んどいたから、優希くんも行きな。」
恵はニッと笑うと、右手の親指で廊下をさす。
「どうもっス。代金は…こんぐらいで足ります?」
優希は適当に二十万程引き抜き、手渡した。恵は一瞬目を丸くしたが、五枚ほど引き抜いて残りを返した。
「こんなに要らないって。五万もありゃ充分よ。後はみんなに美味しいもんでも食べさせてあげな。」
「…いつもありがと。」
そう言われて恵は顔を赤くして、頭を掻いた。
「いいって。こっぱずかしいなぁ、もう。ほら、二人は私が責任とって面倒見るからさ。」
「変な事しないでくださいよ。あと、あんまりおおっぴらには…。」
「分かってるって!ほら、お行き!」
「はい、では。」
「…行ったわね。」
「…嫌な予感が…。」
「んもー慧音ったら酷いなぁ。私だって相手を酷使するほどはやらないわよ。」
恵は笑いながら、タバコケースを手にとった。
「タバコ…いいかしら?」
「構わない。」
「ありがと。」
恵はタバコを口にくわえ、火をつけた。
「あの子達はなってくれるのかな…私の成れなかった者に…。」
「何の話だ?」
「んー?昔の話よー?」
「…君はどこかスキマに似てるな。」
「紫に?そりゃ光栄だわ。あと、恵って呼んでよ。」
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