零ノ刻 人々に忘れ去られた幻の郷

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ー幻想郷の山中のある屋敷ー 古い屋敷の台所で黄色い九つの尾を持った妖怪が昼食の準備をしていた。 戸棚から皮袋を引っ張り出すと、中を覗く。 「少し味噌が足らないな…。仕方ない…紫様起こすついでに取ってこよう。」 九尾の狐である八雲 藍は皮袋を持って、台所を後にした。 縁側を歩き、倉庫に着くと、瓶の中の味噌を皮袋いっぱいに移す。それから倉庫を後にした。 「らんしゃま~。」 外から小さな猫又の女の子が駆けてきた。藍の式神の橙である。 「橙か。ちょうど昼食が出来たから食べていくといい。」 「はーい。」 橙が玄関に駆けて行くのを見送ると、藍は一角の部屋の襖を開いた。 「紫様ー、起きてくださーい。」 紫と呼ばれた女性はピクリとも動かない。藍は我が主を起こすべく、部屋に踏み込んだ。 「全く…この人は本当に寝相が悪いな…。」 藍はそんな事を呟いた。 藍の主は八雲 紫と言う。隙間妖怪と言われ、何千年も生き、この幻想郷を作った一人。 気品に溢れ、美しく、威厳のある人物で藍が尊敬し、畏怖する存在である。 そんな主も今や尻を突き上げて眠っている。 流石の藍もため息を吐いた。 「紫様、ご飯出来ましたよー。」 藍が呼びかけても起きない。おかしい。 紫の肩に手を置き、紫の体をひっくり返した。 「紫さ……。」 その姿を見て藍は絶句した。藍が見たのは苦しそうな顔をしている紫の姿があったのだ。 彼女らしくもなく慌てていた。 「紫様!大丈夫ですか!?紫様!!」 青空の下で藍の声がただ響いただけだった。
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