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僕は手に持っていたペットボトルの水(日本アルプスの雪解け水。偉大なる大地の恵みである)を少しだけ口に含み、喉を潤した。
「そんな事よりリリ君。どうして貴方は甚だしく汗をかいているのかしら?」
僕の呼称と甲斐性を一緒くたに「そんな事」として切り捨て、彼女はそう言った。どうやら暴言を撤回する気も呼称を転換する気もさらさら無いらしい。
「別に何って程の事ではありませんけどね。図書委員長に頼まれて廃棄される本の移動をしていたんですよ」
力仕事ですからね、彼女には少し辛いんでしょうと僕は更に付け加えた。
それを聞いた先輩はあからさまに眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔つきになる。失念していたが、先輩と図書委員長は犬猿の仲と言うのも生微温い、例えるなら龍虎の間柄なのだ。
下手を打ったなぁと、僕は内心頭を押さえる。
「別に貴方の交友関係がどうであろうと私には何の影響も無いのだけれどね、リリ君。あれは、あの女だけはやめておいた方が無難だと思うわよ。あの大切に育てようとするあまり水をやり過ぎたら根腐れしちゃったチューリップから生まれた親指姫みたいな性悪だけはね」
不愉快である事を隠そうともしない彼女の態度に、僕は「まぁ……はい、よく考えてみます」と曖昧な返答をする事しか出来なかった。
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