バレンタインデー

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 へんてこりんな音楽に合わせた踊りは、もはやただの茶番劇である。胸を躍らせるだけ踊らせて、結局息切れして俺は倒れてしまった。観客席は喜劇でも無いのに大爆笑だ。笑う悪友に拳を震わせたのを、今でも覚えている。  友情、恋愛、部活。およそ青春の三大要素と呼ばれるものは、全て失敗に終わった。残っているものといえば、学生の本業である勉学ぐらいだろう。  これから先、俺は勉学と共に暮らさなければならないのか。そう考えると寒気がした。今までは週休七日制で本業に勤めてきた俺にとって、それはもはや拷問と同じである。生き地獄である。地獄では、天気の話すらできないではないか。  そもそも、謳歌とは本当に歌う事ではない。  それを、音痴だ何だとわめき立て、懸命に話を反らそうとしている辺りが、私の底の浅さを表している。  底上げしたのは他でも無い私だ。しかし、上げた水準を元に戻したのは、他の誰かであろう。  底が浅く、水面にはギトギトの油が張っている私の器には、青春などという清らかな水を入れる余地が無かった。私はやむを得ず青春を謳歌することを断念した。
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